2022.02.01

『ラブハグブライス』の制作協力者、「スタジオウー」のインタビューをお届けします!

CWC(担当:アイザック): 今日はインタビューを了承してくださりありがとうございます。
ラブハグプロジェクトはスタジオウーさんの貢献無しではこんなに早く、クオリティが高く完成しなかったと思っています。
スタジオウーの斎藤さんと原型製作などを担当してくださったKENZOさんに質問を用意したので制作中のお話や今後の事を聞こうと思っています。

 

CWC: 初めに、私たちがラブハグブライスについてスタジオウーさんに連絡したとき、どう思いました?

 

斎藤: ブライスの新しいシリーズなので、とても光栄だなと思いました。私はbean’s(ビーンズ)という雑誌の編集長をしていた時からずっとブライスが大好きでしたから。素敵なコンテンツだし、それに参加できることが嬉しかったです。そういう気持ちもあって出来ることは一生懸命やろうと思った反面、私たちのやっている「WonderFrog(ワンダーフロッグ)」とは世界観も個性も違うのでどこまで力になれるか不安もありました。でも信頼してもらってオファーを頂いたので、頑張ろうと思いました。

 

CWC: 不安がある反面、嬉しさを感じてくれたことは僕としても嬉しいですね、良かったです。個人的には顔の原型を作ってもらった後、オンラインミーティングでKENZOさんがパパパッと髪の毛の造形をその場で作ってしまった時が印象的でした。それを見た後はもう心配は無いな、と。KENZOさん的には、顔を作る過程はどうでした? 

 

KENZO: まず、CWCさんからいただいたイラスト(顔のスケッチ)の雰囲気と、ブライスの可愛さを引き継いだ新しい顔を作ることを前提に製作を進めました。ある意味迷いは無かったんですが、出来上がったものが「可愛い」かどうかは皆さんに委ねるしかないかな、と思いました。

 

斎藤: 私が顔の造形をチェックすると、見る角度によって表情が変わって見えるんです。立体的な入れ目のドールと違って限られた条件の中で表情を作らなければならないので、そういう意味でKENZOの良さが出せたのではないかと思いました。ミディを元に作っているんですが、ただ同じように作ればいいというものではなかったので、どこまでミディの可愛さを表現して、その雰囲気を出せるかというのが勝負なのかな、と。

 

KENZO: 雰囲気出しは大事です。ただ似ている顔を無機質に形にしても可愛くならないし、ミーティングでレトロ感やロマンス感を出したいという要望が出ていたので、色々考えました。ほっぺたの角度であったり、唇で何度かリテイクがありましたね。厚みをほんの薄皮一枚足すのか削るのかを繰り返しながらどこから見ても可愛くなるよう試行錯誤をしていきました。

 

斎藤: 瞳の角度も、ほんの僅かに変えただけで印象がガラっと変わってくるんですよね。アイザックさんとも随分お話しましたけれど、ちょっと伏せ目にするべきかとか、瞳のハイライトをもう一個入れるのかとか。本当に難しかったですよね! 

 

CWC: そうでしたね...本当にちょっとだけ変えただけで随分と印象が変わりました。僕は顔のデザインの元となるスケッチをパソコンと顔のサンプルに何度も描きましたけど、やっぱり立体で考えるのは難しかったです。ネオブライスだと瞳の向きを変えて印象を変えられるけど、ラブハグの場合は見る角度を変えて顔の印象を変えていく。瞳のデザインを立体の顔に置くとすぐに間違いが浮き上がるのが面白くて難しかったです。

 

斎藤: デザイン画を実際に起こす難しさっていうのもありましたよね。平面に描いたものが可愛くても立体で描いたらやっぱり角度によって形が変わってしまう。

 

KENZO: そうですね、デジタルでは本当に上手く描けちゃうので、それを見ると完成したような錯覚に落ちてしまうことがありますよね。完成したのイラストが良く出来ていると、描いた人はそれにしかならないだろう、と思ってしまう。でも、実際に立体にするとそうはならない。

 

CWC: 想像してる結果と実際行われる工程の合間って感じですかね。最終スケッチも実物とは結構印象が違うし。紙の上ではこうはできるけど、立体ではこうはできないってことが結構出てきましたね。

 

KENZO: デザイン画だとブライスのオリジナル瞳の形からは違うものになってしまうのかなって言うところがありました。結果的にはできるだけ元のブライスの瞳の形を尊重して、その上にデザイナーであるアイザックさんのスケッチを当てはめて、最大限落とし所の見える形にしました。 


CWC: 今回の二種類のカラーですが、斎藤さんとKENZOさんでしたらどういった色にしてみたいですか? 

 

KENZO: そうですね。僕はできるだけユーザーの声を聞いて新しいデザインを決めると面白いと思います。おもちゃなどのプロダクトはメーカー側が発信してユーザーが受け止めるだけのものが多いので。ユーザーの思ったアイディアを実現していくのは意外といいのかな、と。 

 

CWC: 顔のステンシルも決まっているし、その分やりやすいから面白そうですね。 

 

KENZO: そうですね、顔の塗り絵用画像を配ってそれをフィードバックしていっても良いかも。ユーザーが育てていく感じが、ただのぬいぐるみとはちょっと違う。これもやっぱり、描き目だから出来ることじゃないかな。 

 

CWC: KENZOさんはアーティストとして一番大事にしていることはなんですか?自分が「これは面白い」と思うものとお客さんが「これは欲しい」と思うもの、どう言うところを気にしてますか?

 

KENZO: スタジオウーでは「作品」というより「製品」を作っているので、大事というか気をつけていることはあります。それは三つあって、まずは自分の作りたいように、想像のままに湧いてきたお話を元に作ること。次に会社の製品として売りたいものを作ること。そして、ちゃんと売れるものを作ること。新しい製品を考える時は、色々なハードルがあって、それをクリアできるかな?と考えながら作業することが多いです。

 

CWC: ワンステップずつに考えると、まずキャラクターを作りたいと思う衝動的なものから始まって、その作りたいもののリストからビジネスとして成立させるため、確実性のあるものを制作するって感じですか?

 

KENZO: それのコンビネーションです。作ったものを将来的にランクアップできないと判断したり、モノは出来てるけど物語性が乏しかったり、それを生かすことが出来なかったら捨てることもあります。まずは自分の中にあるハードルを超えて、社内で最終的なジャッジをしてもらって、売れるとなってから初めて工場に旅立つので、長いですよ(笑)。 

 

CWC: その中で一番制作を楽しむ時間はありますか? 

 

KENZO: うーん...。出来上がった後かな。 

 

CWC: 出来上がった後! 

 

KENZO: 考えてる時とか作ってる時は辛いんです…。よくおもちゃ屋さんって夢がありますねって、声があるんですけど。  

 

CWC: (笑) 

 

KENZO: 自分の想像が沸いてしまったことに怒る時もあるぐらいで。 

 

CWC: (笑) 

 

KENZO: 沸いちゃったら作らざるを得ないというか...何を作ってるのか、なぜ作ってるのか疑問に思ってしまったり。出来てくるとクオリティが見えてくるので、これはダサいとか、これはもっとこうしなくてはとか色々やって...そして座り作業なんで体力は残るんですが気力が毎日なくなるんですよ。なので出来上がったらホッとします。みんなの反応が良かったり、売れてくれた時が一番楽しいですね。

 

CWC: それは共感しますね(笑)。私は運よくスタジオウーさんとかぬいぐるみメーカーの内藤デザインさんは優しく話してくれるから、その苦痛はまだ強くは感じてないんですけど、やっぱり何かを作って、それが売れなきゃいけないっていうプレッシャーは、大変だなって感じますね。

 

KENZO: 短いスパンで全てを売り切ろうと思うより、長いスパンで集まってくれるファンを大事にしていった方がいいと思います。まずは楽しいと思ってくるユーザーを一人ずつ大切にしていくことが大事だと思います。

 

CWC: おもちゃの土台となる、一番重要なモノはなんだと思います?

 

KENZO: 僕は意外と単純なものなんじゃないかと思っています。手に持った瞬間に手放したくない、持っただけですぐに楽しくさせてくれるもの。ブロックやスライムでもいいし、人を楽しませる感覚、そこが根源的に大事なのかなと思ってる。

 

斎藤: プリミティブな感じなのかな。 

 

KENZO: そう、子供がクタクタになるまで同じおもちゃしか握らないとか。それが心根に大事な物で楽しい、かわいい、かけがいがない感じになるんだと思います。作り手側が小手先で作る可愛さは全然ヒットしない、刺さらないことがあるんですよ。そこはもうモノが持ってる素直さを出せれば良いかな。 

 

斎藤: 私はおもちゃが持つ物語が重要だと思ってます。それは別にストーリーという意味だけではなくて、例えばヴィンテージだったり歴史があるものにも経過した時間や時代という物語がありますよね。それって魅力的だと思うんです。ブライスからもそういうものを感じます。ディテールが単純でも複雑でも同じで、それが伝わるかどうかはとても大切です。多分それは作り手が吹き込んだ命のようなものだと思うんです。クオリティーが高くて緻密に出来てても惹かれないおもちゃと、単純で稚拙だけどなぜか可愛いと思ってしまうおもちゃがあったりする。目に見えない何かがあるんじゃないかなって思っちゃいますね。ちょっと不思議ちゃんみたいな答えですけど(笑)体温を感じるような、そう思っていつも接しているので、床の上で変なポーズで転がってたりすると「ああ、可愛そう!」ってなっちゃう(笑)。 

 

CWC: 感情移入してしまう。 

 

斎藤: そう、おもちゃを落とすと「ごめん!」って思っちゃうけど、ハサミを落としてもそうはならないから。そういう違いなのかなって。

 

KENZO: スタジオウーもそういうものを大切にしています。 

 

CWC: 僕もラブハグを作っている間に、顔のパーツや体のデザインを作ってくうちにどんどんと人間性というか、キャラクターが立っていくのを感じました。もちろんブライスの顔が本当にパワフルなのも関係してると思うけど、ソフビだったもの、布だったものが合わさって魂が宿っていくのを感じましたね。座ってる姿とか... 

 

斎藤: そうですね、一つの可愛らしい存在が生まれてくる瞬間...まるで子供を出産するような、アイザックさんは男性ですけど(笑)。

 

CWC: いやでも、痛みは感じましたよ! 精神的な痛みというか。(笑)何かを作るには何かを代償にしなきゃいけないですもんね。でも作ることは楽しいことでもあるから。スタジオウーでは何を作る時が一番楽しいですか?モチーフというか。

 

斎藤: スタジオウーはもうフロンティアで、おもちゃでも良いし、本でも良いし、自由にやろうと思って始めたところなので、自由にチャレンジしていくことが楽しいですね。ワンダは一番大事なコンテンツですが、これからさらに世界を広げていきたいです。もっと色々な方にワンダを知っていただけたら嬉しいです。他には球体関節とか、ワンダとはちょっと違う雰囲気のものとかできたらいいなと思います。

 

CWC: 最近、コレクションとかしてますか?

 

斎藤: 私はずーっと前からそれこそ、生まれた時からコレクターをしてるので(笑)。色んなドール、特にビンテージのものを集めています。60~70年代のアメリカと日本の着せ替え人形が結構好きで、自分自身のファッション趣味も満たしてくれます。クリエイティビティを発揮させてくれる、スタイリングして遊べるのが素敵なので…あとは個性的なものが好きです。ロコたん、カマードールとかエメラルドウィッチって言う目がピカピカ光る魔女の人形とか、あしながレギーとか。

 

CWC: 足が長い!!

 

斎藤: アメリカだと色んな人種のモデルがあったりするのでそれも興味深いですね。

 

CWC: ラブハグの顔もブライス以外にビンテージのドールから参考にしたものはありました?

 

斎藤: 参考というか、頭に思い浮かんだドールは東ドイツ時代の顔がプラスチックになってるぬいぐるみですね。素朴でかわいいんです。

 

CWC: おお!この子は可愛いですね!!

 

KENZO: ラブハグのお話を聞いたときにまず思い浮かんだのはこのドールですね。これは抱き人形なので首がクタクタしてるので、ラブハグにはちゃんと首の板をつけたんです。 

 

CWC: すごく納得がいきました。ちょっとだけ禿げてるのも面白い。(笑) 本当に顔のデザインにセンスを感じますね。

 

斎藤: 昔のヨーロッパのデザインはまだ記号化されてないから面白いデザインが多いんですよね。

 

CWC: ぬいぐるみの枠に入るもので好きなおもちゃはありますか?

 

斎藤: うーん、シュタイフは有名ですよね。でも最近だと作家さんが個人で作ってる個性的なものも好きかな。手作りのドールには暖かさを感じるし、時々キテレツなやつとかあったりするし(笑)。変わったモチーフのぬいぐるみは好きですね。あと、動物園で売られている素朴なぬいぐるみが好きです。

 

CWC: ああ!盲点でした。結構良いものありますよね。

 

斎藤: 可愛いでしょう!ってすごく主張するわけでもなく、ただその動物を子供に持たせてあげたい、純粋なぬいぐるみ感があって、それが可愛いんですよね。

 

CWC: 着飾ってないというか。

 

斎藤: そうなんです。去年開催されたGucciのクリエイティブディレクターのアレッサンドロ・ミケーレのビジョンを視覚化した展覧会がありましたが、その中にもそれこそ全然ブランドものじゃない、動物園にありそうなノンブランドのぬいぐるみがびっちり詰まった展示があって、アーティストもそういうものに新しさや「愛」を感じるのかな?って思いましたね。

 

CWC: そうですね、普通なものほど人間性に近い、アートに落とし込める。

 

斎藤: 触れられる距離感というか。ぬいぐるみって抱きしめられるし、人間的な存在ですよね。

 

CWC: では最後に、ワンダの物語で一押しのキャラクターはいますか?

 

KENZO: 僕は全員ですかね。

 

斎藤: 良いお父さん。(笑) 全員が子供みたいものですね。私はやっぱり主人公のワンダで(笑)。

 

CWC: (笑)。ありがとうございました。

 

 

斎藤亜弓(さいとうあゆみ)さん/プロフィール
有限会社スタジオウー主宰。小学館週刊少年サンデーにて漫画家としてデビュー後、週刊連載を経て、漫画家から編集者に転身。ゲーム誌、アニメ誌など数多くの雑誌、書籍に編集長として携わる。その後スタジオウーを立ち上げ、小さなおもちゃの本bean’s(ソニーマガジンズ)を企画、制作。主な仕事に、AKIRA DVDSpecial Edition(バンダイ)、大友克洋POSTERS(ピエブックス)、MEDICOMTOY 20th Anniversary1996-2016(メディコム・トイ)、プチマニアプチブライス完全カタログ(1)(2)(ソニーマガジンズ)など。現在はWonder Frog(ワンダーフロッグ)のプロデューサー兼ディレクター、ワンダショップ店長を務める。

 

KENZO(ケンゾー)さん/プロフィール
造形作家、アーティスト。自らのスタジオを主宰し、仮面ライダー関連や雨宮慶太監督作品など、数多くのTVCM、映画やテレビ、ゲームの特殊美術を手掛ける。その後スタジオウーに参加。自身の原作によるWonderFrogの世界を展開、物語・原型製作・デザイン・グラフィックデザインなどに至るまで全てを一人で担当する。また、今回ラブハグブライスのフェイス原型を製作している。

 

スタジオウーオフィシャルサイト
https://www.studio-uoo.com